『ふーん。 そんなにヤバイんすか』

バックミラーに映る幸成は、妖しく不敵に笑っていた。

それは、まだオーナーを理解していない証拠。
自分の行動を改める事すらしないという意志表示だった。

『じゃあさー……』

背もたれを倒し肘をつき、上体を私に近付けてくる。

『美香ちゃんみたいに一方的に片思いっての。 あれもバレたらマズイっすか?』

……え?
美香の事?

『マズイなら、今のうちに突き放すべきですよね』

いつになく真剣な顔の幸成。

何こいつ。
美香の心配してんの?

『なによ。 「首輪」なんでしょ? 美香は』

美香は私を繋ぎとめるための首輪。
初めにそう言ったのは幸成でしょう?

それを今更……

『別に? とばっちり受けたくないっすから』

とばっちりって、
諸悪の根源(コンゲン)はあんたじゃん。

『それに、せっかく綺麗なのに傷残したら勿体ないっすよ』

……意味不明。
冷たいんだか、優しいんだか。

でも、美香を粗末にするつもりは無いらしい。
それがわかっただけでも十分だ。

『でも。 アユは諦めないよ』

……え?

『逃げ切る自信はあるんですよ』

『逃げる?』

オーナーから逃げられると思ってるの?
今まで逃げ切れた人なんかいないよ。

皆捕まって、酷い仕打ちをされた。

『逃げ切ってみせるよ。 アユを連れて』

……逃げられるわけがないのよ。