「絶望」
オーナーが私達に与えたのは、ただそれだけだった。

『お疲れ様ー……』

0時になって、お店が閉店となる。
いつもなら愛想よく「お疲れ様~」と声を出す藤原だが、今日は元気がない。

……やっぱりね。
オーナーを歓迎してないんじゃん。
あんたも。

藤原が喜ばなきゃ誰が喜ぶの?
誰もいないんじゃない?





『じゃあ、おやすみなさい』

マンションに着いて車を降りる美香も、心なしか元気がないように見えた。

美香も私と同じ。
藤原に騙され、連れてこられた。

オーナーにした事もされた事も、全部同じ。

【死んでしまえ】
もしかしたらそう思った私への罰なのかな。

自由を与えられてしまった今だからこそ、また縛られる事が恐い。
前より、抜け出したい気持ちが大きくなってしまったよ。



『オーナーってー。 そんなヤバイんすか?』

美香がマンションへ入っていったと同時、幸成が問い掛けた。

そうか。
あの店でただ1人、幸成だけがオーナーを知らない。

だから1人だけ動じる事もなかったんだ。

『もう幸成の自由には出来ないよ。 オーナーは絶対に探ってくる』

変な所で勘がいい。
幸成が私に手を出せば、すぐに気付き、そして十和や美香に行き着くだろう。

『もう駄目…… もう逃げられないよ』

終わりだ。
今まで従ってきた事も無駄。

育ててきた友情も。
十和に感じ始めていたこの感情も。

全部が目の前から消える。

唯一、守るために出来る事は……

私が十和との関係を絶ち、幸成も私達から手を引く事。
ただ、それしかない。