『全員集まったかー?』
従業員一同をホールに集めた藤原は、第一声にそう言った。
恐らく誰も欠けてはいない。
人数の少ない店だから、誰かがいなければすぐにわかってしまう。
パッと見た感じ、全員がホールにいるだろう。
『オーナが目を覚まされたそうだ』
きっと誰もが、その言葉に耳を疑っただろう。
「オーナーは死んだもの」
心の中でそう処理していた私も、藤原の言葉を上手く理解出来なかった。
『まだこちらには戻られないが、一先(ヒトマ)ず安心という事だな』
あんた、本当にそう思ってる?
オーナーがいない間、この店はあんたの自由だった。
本当は悔しいんでしょう?
オーナーに店を返したくないんでしょう?
死んでさえくれれば、あんたがオーナーになれたのだから……
『アユ。 私達、浮かれすぎてたかな』
朝礼を終え、藤原や黒服達のいなくなったホールに、美香の声はよく通る。
『愛とか恋とか…… そんなもの叶うわけなかった』
あんなに幸せそうだった美香。
私も自由を味わいすぎた。
人が一人、ここに増えるだけで皆の心が凍り付く。
感じていた幸せも。
芽生えたばかりの愛情も。
友情も。
全てを消し去る魔力が、あの男にはある。
一度倒れたぐらいじゃ、それは変わらなかった。