『おはようございます』
次の日の夕方、
いつもより少し早く幸成がやってきた。
私のアパートに寄らない分、早く着いてしまったんだろう。
『おはよ、幸成くん』
美香は満面の笑みで挨拶すると、後部座席に乗り込んだ。
『クマ出来てますよ? 夜更かししたんすか?』
『え、やだぁ! そんなに目立つ?』
コンパクトを取り出し目元を確認する美香は少し嬉しそうで、見ているこっちも笑みが漏れた。
そんな会話でも、相手が幸成なら嬉しいんだね……
『美香ちゃん色白いから、目立ちやすいんでしょうね』
あ、幸成も笑ってる。
あまりに自然で温かい空気。
このまま幸成が美香を好きになって、それで恋人同士になれたなら……
そんなのは、あまりにも都合良すぎるかな。
私の身勝手、かな?
『……朝礼?』
待機室での着替えを済ませてすぐ、黒服の1人に「全員ホールに集まるように」と伝えられる。
久しぶりすぎる朝礼に、妙な不安を感じた。
だって、朝礼なんてあの日以来。
あの、早苗と真吾くんの時以来。
嫌な話以外に何があると言うの?
『アユ、行こう? 遅れたら何言われるかわかんないし』
そっと上着を差し出し、美香が笑う。
微かに震えた手からそれを受け取り、腕を通した。
皆、平然とホールに向かう。
いや、平然とするフリをしてる。
心の何処かで、あの日の朝礼を思い、今から起こる事を恐れているんだ。