『そろそろ時間だね』
何かしたわけでもなく、十和の買った時間は終わる。
好きでもない奴にさっさと抱かれて終わる50分と、十和といる50分。
皮肉な事に、十和との時間はいつもすぐ終わる。
『次は、いつ来るの?』
身仕度を整える十和の手を掴み、そう尋ねる。
するといつもの無邪気な笑顔を見せてくれた。
『いつでもいいよ。 アユはいつがいい?』
そんな事言われても困る。
支払うのは十和で、私じゃない。
我が儘なんか言えないよ。
『早く来た方がいい? それとも、もっと間隔開けた方がいい?』
もしかして私の気持ち、知ってんじゃないの?
知ってて答えさせるの?
ってか私の気持ちって?
一体どんな気持ちなのよ。
『……また来るね? 近いうちに』
何も答えが来ない事に痺れを切らしたのか、十和の大きな手が私の髪を2、3度撫でた。
近いうちに。
それにホッとしてる自分がいる。
奈美の言った事はほんの一例で、十和に当てはまるわけがない。
そんな安堵感……
『お疲れ様』
待機室の一歩手前。
まるで狙っていたかのように幸成が現れる。
欝陶(ウットウ)しい。
いつもならそう思う所だけど、今日は私も用事がある。
『十和に何を言ったの?』
十和の事をじっくり話してみなよ。
『情報の交換ですよ』
『へ?』
十和の言っていた事とあまりに違い、思わず間の抜けた声が出る。
情報の交換?
それって一体……
『ひょんな事から十和さんの秘密知っちゃってね。 代わりに教えてあげたよ』
教えた?
教えたって、まさか……
『この店の事。 アユがオーナー達にした事も、された事も』
幸成の言葉を聞くが早いか、私の手は右から左へ勢いよくスイングした。
途中、パーンと甲高い音を鳴らし。
『あんた。 マジで最低』