うるさい。
うるさい、うるさい。

心臓がうるさくて堪らない。
何でこんなにうるさいの?

『アユ』

十和が名前を呼ぶだけで、驚かされたみたいに脈が荒くなる。

【アユが欲しくて】

あんなこっ恥(パ)ずかしい台詞を言い切った十和の方が、平然とした顔してる。

おかしいな。
何で私がこんなに落ち着かないの?

『アユ、俺……』

十和は姿勢を正すように座り直すと、ゆっくりと口を開いた。

『何……?』

中々出ない「俺」の続きに痺れを切らし、こちらから尋ねる。

『俺ね……』

何が言いたいんだろう。
眉間にシワを寄せ、目も戸惑ってるかのように私を見ない。

一体何?
そんなに深刻な事?

『……ごめん』

と突然、険しい顔を解き、穏やかに笑う。

『何でもないから、気にしないで?』

今日の十和はやっぱり変だ。
大胆だったり、遠慮気味だったり。

十和がこんなだと私も調子狂うよ。

気にしないなんて事、無理なんだからね。

『言いづらい事だったら、整理してから話してくれればいいから』

でも無理矢理聞いたって話してくれないだろうし、とりあえず今は聞かなかった事にするよ。

『うん。 ありがとう』

その笑顔に免じて、ね?