『ねぇ、十和』

薄ぐらい部屋の扉が開くと同時、私は十和に問い掛けた。
幸成との事を。

『幸成と何を話してたの?』

十和は少し驚いたように足を止め、それをごまかすようにまた笑顔を作った。

『さっきの人?』

名前は聞いていないのだろうか。
十和はそう返してベッドへ進んだ。

『立川幸成。 さっきの黒服。 何か話してたんでしょ?』

あんな険しい顔して、何も無かったとは言わせないよ。

おまけに相手が幸成だ。
何かあるに決まってる。

『ちょっとね、釘刺されちゃった』

『釘?』

『愛されてんだ。 立川くんに』

愛されてって……
キモい事言わないでよ。
冗談じゃないっての。

『私、あいつとそんな関係じゃないから』

幸成が一方的に何か言ってるだけで、私にそんな気はない。

『冗談だよ。 ちょっとカマかけてみただけ』

むきになっていた私が可笑しかったらしく、笑い出した十和。

意識的か無意識か。
大きな手は、私の手を握っていた。

『カマって、意味わかんない』

包まれた手が熱くて、汗をかいてしまわないか心配になる。
じとっと濡れたら、きっと十和は繋いだ手を離してしまうと思うから。

『アユの恋人みたいな口ぶりだったから気になってさ』

『こ、恋人……?』

幸成の奴。
適当な事ばっか言い触らして。

そんな事したって好かれたりなんかしないっての。

『恋人じゃなくて良かった。 俺、諦めなくて済むし』

被さっていた大きな手はクルッと身を翻(ヒルガエ)し、私の手の下へ。
合わさった手の平に、交差する指。

さっきより密着度が上がって、本当やばい。

『と、十和?』

『うん?』

『えと…… 何もない』

いつもより積極的で、
何だか色々と困る。