「おはよう」と「お疲れ様」
何度繰り返しただろう。
何度繰り返すのだろう。
売上げを上げてからは、美香以外が敵に回ったような疎外感。
客に抱かれ、その度に飛び交う中傷。
何だか疲れてしまった。
疲れて何も考えたくない。
はずなのに、何故か十和の顔が浮かぶ。
少しだけ十和と話したいな……
『人の客盗るってどうなのー?』
休憩室の鏡台前。
奈美は、フェイスパウダーを大きなパフで叩き込んでいた。
『マジ有り得ないし。 あいつ本番やってんじゃない?』
隣の娘(コ)にグチグチ漏らす奈美の標的は、多分私。
昨晩来た客、どうやら奈美の客だったらしい。
そんな事、私は知らないし。
客に呼ばれたから行っただけだし。
ひがみ?
八つ当たり?
そういうのすごく理不尽。
『ねぇ、アユー』
そんな奈美を無視し、美香は私の隣に座る。
『最近、十和さん来ないねー。 アユが忙しいから遠慮してんのかな?』
実は、私も気になってた。
十和はもう2週間も姿を見せていない。
いつも10日以内には来るのに。
別に来るの期待してるわけじゃないよ。
ただ珍しいなって……
ただそれだけ。
『メールして呼んじゃえば? きっと喜んで来るよ』
キャバクラじゃないんだから、それ有り得ないでしょ。
十和もきっと迷惑だと思う。
『馬っ鹿みたーい』
と突然、鏡に向かっていた奈美が振り返って言った。
『客に夢中になってどうすんの? どうせ飽きたらチェンジされちゃうのに』
飽きたらチェンジ?
考えた事もなかった。
『うちらなんか、どうせ性欲処理の道具なんだし。 今頃は、違う店にいるかもよ?』
十和は私を指名する。
私に会いにくる。
それが当たり前だと思ってた。
そんな自分を恥ずかしいと、ようやく気付いた……