「わたし実は、勉強苦手なんだ。だから、短大の入試落ちそうで。家族はレベル下げたほうがいいって言うんだけど、わたしは絶対そこじゃなきゃ嫌なの。それで、家出しちゃった」



「……そうなんだ。なら、頑張るしかないよね。周りの意見なんて、聞かなくてもいいと思う」



あたし適当に返した。
そんなにいい人じゃないからね。



「……ありがと。頑張るしかないよね。芙祐ちゃんはどこ大目指してるの?」



「〇〇大」


「へぇ、賢いなぁ。わたしなんか、足元にも及ばない……。でもまぁ、いいんだけどね。やっちゃんも、勉強できない女のほうがいいって、言ってたし」





地面に伏せてた目線が、
ゆっくりとあがって
あたしに向く。


「勉強できない方がいいんだね、ヤヨは」



一応繰り返してあげたよ、その言葉。

ノーダメージですって
言いたいの、あたし。

負けじと、麻里奈ちゃんを見つめる。


でも、麻里奈ちゃんは
全然ひるまない。


「やっちゃん、受験勉強頑張ってるでしょ?」


麻里奈ちゃんの視線が
なんだか力強くて。


赤い唇が、わざとらしく弧を描いている。


「……うん。絶対落ちるわけにいかない、とかいって、ガリ勉してるよ」



あたしがそういうと、「よかった」と麻里奈ちゃんはいつもの柔和な笑みをつくった。



「やっちゃんの志望大学はね、わたしと中学の時から約束してたところなの。高校は離れるけど、大学はそばの学校にしようって。


落ちるわけにいかないって、思ってくれてるんだ。安心した」




そう、麻里奈ちゃんは笑っていて。


……そんな嘘に騙されるもんか。


あたしは、ヤヨを
そこまでひどい子だと
思ったことはないからね。


だって、絶対
ありえないよね?



コートのポケットの中にある
二つのお守りをぎゅっと握りしめた。



「……近い大学になるとしても、ヤヨが付き合ってるのは、あたしだよね?」



麻里奈ちゃんに負けない、思い切り作った笑みで問いかける。



麻里奈ちゃんは、「そうだね」とニコニコしながら答えて、
空いたトイレの個室に入っていった。



……なにあの子。


……麻里奈ちゃん、嫌いになった。


いや、とっくに、
嫌いだったんだろうな。


ヤヨの元カノなんか。




そうだ。
ヤヨにとっての慶太くんて
こんな感じなのかも。



イライラしながら、個室に入って、鍵をかけた。