にわかに砂利を踏む音が聞こえた。
そして––––

「……楓?」

同い年の男の子の声にしては低すぎる音が聞こえた。
私は今、楓ではなく楓花だ。
それなのに思わず振り返ってしまう。
その瞬間。

「早太郎さん」

その言葉は自然と出た。
私が楓花でいるうちに彼には一度も会ったことがなくて、しかも楓の頃の記憶なんて一切ないのに、彼の方へ足が勝手に動く。

「楓」
「早太郎さん」

一八六四年七月二十二日に別れてしまってから、もう会えないと思っていた人がそこにいる。


当たり前のように手を伸ばし、
当たり前のようにその手が触れて、
当たり前のように大きな腕に包まれる。

この暖かさを感じたのはいつのことだったのか思い出すこともできないのに、懐かしさを覚えた。


私はこの人を、この人を温もりを
知っている。