やがて、朝になり
2人は目覚めると
特別な会話をするわけでもなく
帰宅の準備を始めました。
何も話さないイサムさんへ
愛子さんは言いました。

「ね、イサム、
 今夜電話するね」

するとイサムさんは

「あぁ、今夜は山田たちと会うから
 また俺から連絡するわ」

愛子さんは少し悲しそうな表情で
うなずきました。

やがて、2人は部屋を出て行きました。

愛子さんの表情から
愛子さん自身も少しイサムさんへ
不安を感じているんだろうと
愛川は思います。

あの、愛子さんの表情か気になるので
愛川、浮遊霊になって
少し今後の2人を
観察することに決めました。

なーに、ちょっと気合いを込めて
このクマの置物からポーンと出る
イメージで力を入れたら
浮遊霊になれちゃうんですよね。(^^)v

では。
よっこら!

ね、簡単でしょ。
さてさて、2人を追いかけなくては。

あ、居ました居ました。
2人は駅まで歩くと
改札口を通り
イサムさんがポンポンと愛子さんの
頭を撫でるとそれぞれ右と左へと
別れて歩き出しました。

愛子さんは駅までの道のり
ずっとイサムさんの手を握りしめ
そして、今も
イサムさんの姿を振り返り
私の方を見て!と言わんばかりに
離れて行く姿を見つめていました。

きっと
愛子さんはイサムさんに
すでに愛の魂を
吸いとられてしまいましたね。

愛川はイサムさんの姿を
追いかける事にしました。
今後、愛子さんがどーなるかは
イサムさん次第だと思うからです。

イサムさんは、電車に乗ると
頻繁に携帯をいじり
やがて8つ目の駅で降りると
たぶん自宅であろう家で
深い眠りに入りました。

突然
電話の音が鳴り響きました。
すいません、
愛川も少し寝てました(-.-)Zzz(笑)

辺りはもう薄暗く
時計の針は
6時を過ぎていました。

「ん、ありがと。
 じゃ、これから準備するから
 じぁ、後で」

イサムさんはそう話し電話を切ると
2階の部屋から1階のバスルームで
シャワーを浴び
手慣れた手つきで髪を整え
着替えを済ませ
今朝、降りた駅へと向かいました。

そしてまた8つ目の駅で降りると
にぎやかな街の中へと歩き始めました。

やがて小さな銅像の前に
1人の女性の姿を見つけると
小走りに近より声をかけました。

「ごめん、待った?」

「大丈夫だよ、それよりバイトお疲れ様」

「電話ありがとね。やーもうさ、
 恵美ちゃんと会えるならって
 かなりバイト頑張って終わらせたよ」

!!!
恵美ちゃんですか!
この女性の正体は恵美さんでしたか(゜ロ゜)
なるほどですね。
イサムさん、
愛子さんもいただいて
更に恵美さんにまで
手を出すおつもりなんですね(^_^;)
バイトなんて言ってますけど、
昨日は愛子さんと
一夜過ごしていましたよね?
イサムさん、恐るべし!

イサムさんと恵美さんは
居酒屋に入り
盛り上がっています。
しばらくすると

「そろそろ、終電なくなるし
 帰らないと」

「えー帰っちゃうの?
 この後、どっか行こうよ」

「んー、ごめんね、電車なくなると
 困るし、帰るよ」

「じゃー、朝まで一緒にいようよ」

その言葉に恵美さんは
ニコリと笑顔を浮かべました。

やはり、愛子さんと同様に
恵美さんもイサムさんに
口説き落とされてしまうのですね(T-T)
と、思ったのですが、

「私、イサムとはやらないよ。
 イサムが本気で私を好きにならなきゃ
 私はイサムとはやらない。
 だってさ、私とやったら
 イサムは一生、
 私とやった事を後悔すると思う。
 だって、イサムは遊んでたいんでしょ」

「何?それ?
 俺、恵美ちゃんとやると
 遊べなくなっちゃうの?
 え?意味分かんないんだけど。」

「うん。遊べなくなっちゃうよ。
 だって、私とやっちゃったら
 イサムは私の事、好きになるもん。
 好きになりすぎて遊べなくなる。
 だから、遊んでたいなら
 私とはしない方がいいよ」

「(笑)すごい自信じゃん。」

「まぁね。」

恵美さんとイサムさんは笑い合っていた。

恵美さんはなぜそんな
自信めいた言葉を発したのかは
愛川にも分かりません。
でも、愛子さんと明らかに違うのは
とても強い意思のある人であり
とても魅力的な人でした。

人を愛するにはいくつかの
方法があると思います。
相手に尽くし身を任せる人。
流れに身を任せず己の意思で動く人。
流れの中でも舵を取ろうとする人。
渦に巻き込まれ溺れる人。
本当に色んな愛の形はあります。

相手が何に魅力を感じ
惹かれ合うかは人それぞれであれど
愛し方を間違えると
望む答えとは真逆に道は進み
やがて沼へとたどり着いてしまいます。

そうなんです。
愛子さんはただ愛した。
ただ1人、愛されたかった。
出会ったイサムさんに愛されたいがゆえ
イサムさんの声に答え
愛される近道だと信じて身をゆだねた。

恵美さんも同じくきっと
イサムさんを想った。
ただ1人、愛される為に
恵美さんの声に答えてくれるよう
イサムさん自身の気持ちを元から
手に入れる事が
愛される近道だと考えた。

こんなにも道は大きく変わるんですね。
愛川も勉強になりました。

恵美さんとイサムさんは
店を出ると手を繋ぎ
駅へと向かいました。

別れ際、じゃぁねと手を振ると
イサムさんは言いました。

「俺、絶対に恵美ちゃんを
 好きにならないよ?(笑)」

「なるよ、絶対。」

恵美さんはそう答えると
イサムさんの胸にそっとしがみついて

「なってよ、
 私、それまで待っててあげるから。」

ポツリと囁くと
イサムさんは恵美さんをギュッと
抱きしめました。