秘書室へ行くと、秘書主任の堤晴加(はるか)と、四月に入社したばかりの五十嵐さとみの二人がパソコンで資料を入力している。

ノックをして駿が入ると、

「まいどさん」

と関西の頃のままから変わらない挨拶をした。

「室長、おはようございます」

晴加は顔も上げない。

すでに伊福部駿という人物がどういう姿かを、秘書という立場上知っているらしい。

「今日からここで室長やらしてもらうことになった伊福部や。まぁ伊福部さんでもカケルちゃんでも好きなように呼んだってや」

とおどけてみせたのだが、

「室長、こちらの資料に目を通して頂いて、印鑑をいただけますか?」

と味も素っ気もない。

「…分かった」

あまりの冷淡な対応に駿も手渡された資料を机に置いて、作業を始めることしか出来なかった。