「ただいま」

誰かが返事をしてくれるはずもなく私の声は静かな部屋の中に掻き消された。

病院でひととおり検査を終えて帰ってきた私は荷物を床へ放り投げてソファにダイブする。

ぐうぅうぅぅうぅ。

大きな腹の音が部屋にひびく。

「…お腹空いた…。」

私は立ち上がって台所へ向う。

レンジを開けると大きなお皿に盛り付けてあるおかずと1枚の置き手紙。

【美穂へ
今日も遅くなるから先食べていてく
ださい。 母 】

今日も…か。

5歳の時に父を交通事故で亡くしてからずっと母と2人で生活している。

母は朝から晩までずっと働いていた。

1日中顔を合わせない日なんてしょっちゅう。

「寂しい」なんて思っちゃいけない。

「苦しい」なんて思っちゃいけない。

それは母も一緒だから。

お父さんを亡くしてから1番辛いのはお母さんのはずだから。


私は箸を手に取り手を合わせた。