ディヴィレッドを守れなかった。私が連れ出したばかりに、あの子は傷ついた。私は他人を守れる人になりたい。ま、女の子が武器を持っていても馬鹿にされるだけなのだけど。
「ふーん……」
あれから、ディヴィレッドとは会っていない。いや、父が外出させてくれないので、探しに行けもしなかった。
「これってお幾らですか?」
私は槍を指さす。
「えっ?!お買いになられるのですか?」
「いけませんか?」
出た。貴族、ましてや女性が武器を持つのはおかしい。そうずっと言われている。だが、父は私に武術を教え続けている。
「いえ、ダメというわけでは………」
「僕にそれ、買わせてください」
いつの間にか隣に銀髪の男性が立っていた。
「えっ、それ、私が購入します!」
「………」
男性は購入した槍を持ち、私の手を引いて、路地裏へと向かう。
「はい、これ」
「……………?」
槍を差し出される。くれるって事?
「あそこで貴方が槍を買っていたら、あの行商人が罪に問われていたでしょう。『貴族の女の子に武器を売った』…ってね」
「………」
「これからは軽はずみな行動はしない事をお勧めします」
「何がいけないんでしょうね?」
「え…?」
「女性が武器を持つこと……それの何がダメなんですか?」
「女性はおしとやかに。そう習いませんでしたか?」
「習ってませんね。少なくとも私は。………それ、貴方が持っていて下さい。……男性が持っていた方が映えるのでしょう?」
皮肉めいた笑顔を男性に向ける。
「では、私はこれで」
私はまっすぐ進む。
「あの〜どこに?」
「家に向かってるんですよ。いつまで付いてくるんです?」
と言うと、男性はいきなり笑い出した。
「そっちはスラム街ですよ」
「スラム街…??」
「知りませんか?奴隷達が生活している街ですよ」
「奴隷…………?」
「それも知らないんですか?!………奴隷とは、まぁ人にこき使われる、階級の一番低い方々のことです。ちょうどそこにいらっしゃいますね」
薄っぺらい服を着た男の子が道端に座っている。私はその子に走りよる。
「………」
じっとその子の目を見つめる。その子の青い目はとても綺麗だった。生きる意思はある目。だが、憎悪に満ちている。
「ねぇ、貴方の名前は?」
「…………!」
その子の顔に触れようとすると、引っかかれた。
「こらこら、ダメよ、人を傷つけては」
頭を撫でる。
「ちょっ……!ダメですよ!!」
「………」
私は男性を睨みつけた。すると、男性はとても暗い顔をした。
「奴隷は、モノですから」
と、男性は私の視線から目を背ける。恐らく本当はモノだなんて思っていない。この人。顔を見てれば分かる。とても苦しそうな顔をして、何かを必死に耐えている。
「……あなたも触れてみます?」
もう一度触れようとすると、その子は逃げていった。名前、聞きそびれたな…。
「…さて、ここは危ないです。表に出ましょう」
確かに、路地裏にいい思い出はない。……また会いに来てみようかな。
「あなた、名前は?」
「僕はディ………レッドです」
「そう。私はエヴェリーナ。……縁があればまた会いましょう」
表通りに出て、レッドと別れた。