「しかし、残念だなぁ。圭君にはもう既に決まった相手がいるしなぁ」


(えっ!?)


ギョッとして岡崎さんを振り返った。
「圭君」と馴れ馴れしい呼び方をしたのも気になったし、そもそも決まった相手というのは何?


私と同時に彼を見た一ノ瀬圭太の視線も鋭い。
それに気づいた岡崎さんが笑うの止め、ゴホン!と咳を払った。


「いや、ごめん。これは要らないことを喋った」


まぁ議論も程々にしなよ…と言って逃げ出す。

私は岡崎さんの零した言葉の意味が掴めず、背中を見送ってる一ノ瀬圭太を視界に入れた。


岡崎さんの姿が見えなくなると、彼は小さく息を吐いた。
ちらっと私の方に目を向け、何事もないように切り出す。


「タイルの件は俺に甘えてみろよ。何人か知り合いもいるし、コストダウンについても交渉できる」

「どうしてそんなこと…一ノ瀬君がそこまでする必要があるの!?」


「これは俺のデザインした家だし」

「でも、資材調達は私達の仕事で…」

「それが思うように行かないと、モデルハウスは出来上がらないんだぞ。妥協して出来たって売り物にはならない」

「そ、それはそうだけど…」


確かにそうかもしれない。
手緩い仕事で満足しても、家の購買には繋がらない。


「頼ってみろよ。甘えさせてやるって言っただろ」


前に甘えさせてもらってないと言った時のことを持ち出された。