「見知らぬ部屋で、名前も知らない方と理由も分からないままお喋りできるほど、私は寛容ではありません」
呆れた私は皮肉を込めて、かつ伝わるように言ってそっぽを向いた。
今ここで見惚れて思考をシャットダウンしていたのは誰だとは思う点はあるけども。
ついでその相手への態度ではないと思うけれど、考えてみたらこの行動は当然。
振り返ると心底、自分に腹が立つ。
「名前も知らない、ね……」
けれど、そんな私に対して彼は少し冷めた声音で切り返す。
「僕は君を知っている。そして、君も僕を知っている」
彼は私を知っていて、私も彼を知っていて。
ううん、違う。それは嘘。
だって私はこの人を知らない……。
悶々と考える私の思考を読んだのかは知らないけれど。
彼は組んでいた足を崩して静かに立ち上がると、音もなく、それは優雅に近付いてきた。