何かあったのだろうか。
事故に巻き込まれていたり、もしや事件とか……。
ぞっとして居ても立っても居られないと、店外で様子を見ようと席を立ちかけた時。
——からりん。
軽快なベルの音に、ばっと素早く視線を扉に持っていくと。
「でさぁ〜」
「あはは、マジで?」
若い男女のカップルが店に入ってきたところだった。
「いらっしゃいませー。お好きな席にどうぞ」
きっちりマスターらしく振舞う様は、私を小馬鹿にしているとしか思えない。
じろっと睨み上げるように視線を持っていけば、慄いた様子もなく、平然と洗い物を片付けている。
……わざとに違いない。
わざととしか思えない即座の反応。
頭の回転が無駄に早い人はこれだから食えない。
揚げ足取りすらできないのはまた、なんとも屈辱的。