考えがまとまらないまま、無情にもエレベーターは指定の階へと着いてしまった。
エレベーターを降りると、扉は一つしかない。
当然だ、このマンションは一つのフロアに一部屋しか存在しないのだから。
つまるところ、この階は全てアサヒの住まいというわけだ。
一つ深呼吸をして扉に近づく。
恐る恐る、ノブに触れるとひやりとした金属の感触が手のひらを通して体全体に響いてくる気さえする。
もともと想定はしていなかったから、鍵はない。
開かなかったら希望はそこで途絶えてしまう。
さて、どうしよう。
考えるままに引けば、扉は抵抗もなく開いた。
驚き、慄きよりも。
生まれたのは心に降りた安堵感。
中は静まり返っていた。
雑多なものなどほとんどない、清潔感あふれる部屋を一直線に突き進んで、着いた場所はもう懐かしくもある部屋。
私とアサヒが一ヶ月もの時を過ごした、あの白い部屋だった。