『知られてしまった』
そう思うことさえできないほど、全神経は作動しなくなっていた。
我に返った頃には、何もかも遅かった。
じっと息を潜めるかのように動かない“もの”に足をかけていた。
痛めたのは相手だけではない。
傷だらけの拳は痛いという感覚もなく、混じってしまった血はどちらのものかも分からない。
この場を見て状況を理解できない者はいないだろう。
それでも彼女の口からは咎める声がいつまでも漏れては来なかった。
動揺に揺れた瞳。
困惑を露わにした表情は固い。
どれだけ時が経っただろうか。
彼女が顔色を変えてこちらに手を伸ばしたのは、悲鳴のような声を上げたのとほぼ同時だった。
「アサヒ…っ!!」