私が返すと、代わりとばかりに親が口を挟む。
「刑事さん。娘はまだ記憶が戻らないんですよ。
相手の顔が弟だなんて分かるはずないでしょう?」
……傷を、抉る人たちだ。
腹立たしいけれど、ここは弁護してもらうしかない。
何しろ、この人たちの前で私は、まだ記憶を失った哀れな少女のままなのだから。
ここでバレたら、知らぬふりをしてきた今までが無駄になってしまう。
追求されて、アサヒにも迷惑事が及んだら、それこそ後悔しても仕切れない。
それに、目の前のこの人は要注意だ。
刑事さんを見やって、睨みつける。
私を注意深く観察するようなこの目が嫌だ。
澱んでいて、荒んでいて、大嫌い。
「記憶喪失、ねえ……」
顎をさすって気持ちの悪い笑みを浮かべる様に吐き気がする。