貴方がたは私に彼の名前を教えてくれたその後の一切、ただの一度も。
アサヒの名前を呼びはしませんでしたね。
それははみ出し者への牽制ですか?威嚇ですか?
それともただ、自分たちが思い込みたいだけですか?
「ねえ?“お父様”、“お母様”?」
皮肉を込めた低い声は、やがて自嘲へと変わる。
記憶が戻っているではないか。
だけどまだ完全ではない。
大切な何かが欠落している気がする。
パズルのピースがどこかで、はめ間違っている。
一回全部バラそうか?
けれどそんなことをしたら、また何もかも初めから。
全てが無駄になってしまう。
どうしようか。
……ああ、それとも。
私の認識が間違っていたのだろうか。