「学校無理しなくても…退学して通信っていう手もあるんだ」
という声が聞こえた。声の持ち主はもちろん
「しょ、翔太」
「よ、ただいま」
「おかえり」
「さっきの独り言聞いてた?」
「ばっちり」
「聞こえちゃったか…退学しよかなと…ううん。やっぱあの学校に行く」
「なんで無理して…」
「あのね、前にお母さんが言ってたの。『嫌なことから逃げてちゃこの先の人生嫌なことが逃げちゃうような人生になるの。嫌なことから逃げるな』って。あたしのお母さんは、倒産しそうになってて辛い時に家出したんだ。家出って言うか…よく分からないんだけど…。そんなお母さんに言われた言葉なのにね、頭の片隅にこの言葉がいるの」
「…お前のお母さんと俺の母親と似てるな」
「どのへんが?」
「家出したとこ」
「まぁ理由はどうであれ家出したことには違いないんだから、まぁ、似てるね」
「……美樹ちゃん、お腹空いた」
「話し変わりすぎ…今準備する」
「俺は着替えてくるから」
そう言うとリビングを出ようとした翔太に
「翔太」
と声をかけた。
「ん?」
と立ち止まって返事をした。
「あたしのこと好き?」
「分かんねぇ。そもそも俺らって友達なの?」
「知らない」
「俺も…てか急にどうした?」
「あたしのこと好きにならなくていいから」
「お?コレは恋愛ドラマにある『あたしのこと好きにさせてやる』とかいうヤツか?」
「そうじゃねぇよ」
「じゃ何?」
「あたし恋人とか彼氏とか家族とか要らないから」