「凛花ー!おはよう!!同じクラスになれてよかったね!!」
「咲!おはよ!本当に良かったよ、同中なの咲だけだもん〜!」
「…悠馬くんから、連絡とか来た?」
「来るわけないじゃん。今頃、私のことなんか忘れて、元気にやってるんじゃない?」
私と悠馬が別れたのは中学の卒業式の前日。
理由は結局教えてもらえなかった。
それどころか、私に内緒で志望校も変えてしまったから、悠馬が今どこで何をしてるのか全然わからない。
「…そっか。それにしても悠馬くん、どうしちゃったんだろうね、凛花にベタ惚れだったのに。」
「知らないよ。…もうこの話は終わり!もっと楽しい話しようよ!」
「うん…。」
咲は納得いかないって顔してたけど、私は無理やり話を逸らした。
私だって、悠馬のことは気になる。
でも、悠馬から別れを切り出したってことは、悠馬はもう私のことを好きじゃないってこと。
自分のことを好いてない相手をいつまでも想い続けるのは、私にとって本当に耐えがたいことなんだ。
だから、春休みの間悠馬のことを考えないようにして、無理やり過去にした。
悠馬なんて私にはもう必要ない。
せっかくJKになったんだから、あいつのことなんか忘れて幸せになってやる。
そう密かに決意しながら、窓の外に儚く散っている桜を眺めていた。
高校にも慣れてきた6月。
私には気になる人ができた。
羽柴春輝くん。
隣の席で、凛花ちゃん凛花ちゃんって話しかけてくれる、優しくて明るい人。
「凛花ちゃん、移動教室一緒に行こ!」
「あ、羽柴くん。別にいいけど…、咲は?」
「彼氏と話してたよ。」
「そうなんだ…。」
先月、咲に彼氏ができた。
私に気を使ってるみたいだったから、彼氏できたって聞いたときは本当に嬉しかったんだ。
でも、休み時間になるとすぐ彼氏の所に行っちゃうから、ちょっと複雑なんだよね…。
「なーに?ヤキモチ妬いちゃってんの?」
「別に、そんなんじゃ…」
「大丈夫だよ、いつだって咲ちゃんの1番は凛花ちゃんだよ。親友のこと信じなきゃ!ね?」
そう言うと羽柴くんは私の頭をポンポンしてくれた。
「元気になった?じゃあ行こっか。」
「うん…。羽柴くん、ありがと。」
私がそう言うと羽柴くんはニッコリ笑って、
「どーいたしまして!何でも相談してね?」
って言ってくれた。
こーゆー優しくて何でも気づいてくれるとこ、悠馬にそっくりだな…。
「凛花ちゃん?どしたの?」
「んーん、何でもないよ!行こ?」
だめだ。もう悠馬のことは忘れたんだ。
私は羽柴くんのこと好きになって、幸せになる。
そう決めたの。
「あ、凛花ちゃん、見て!すっごい綺麗じゃない?」
羽柴くんが指差す先を見ると、そこには紫陽花が咲いていた。
「ほんと、綺麗だね。」
「俺、あーゆー色好きなんだよね、淡い色。」
「そうなんだ…。」
なんか、私の心みたい。
悠馬のことほんとは好きなのに、忘れようとして、羽柴くんのこと好きになろうとして…。
曖昧な私の心を映してるような紫陽花を、予鈴のチャイムが鳴るまで、私はずっと眺めていた。