バサバサバサバサ
ざわざわの次はバサバサか、
何事だと思いながら太樹の下駄箱を見ると、太樹は固まったまま。
「うわ、太樹、それ、すごいね」
「最近よくあんだよ、これ絶対いじめだよな、片付けるの大変なんだぞ」
私に言われても、しかも、絶対ラブレターだよ、いじめじゃないから、って言いたかったけど、これも見てるのが楽しかったからそっとしておくことにした。
「お母さん、ただいま」
「花音、おかえり。体調どう?」
「うん、今の所なんともないよ、発作も起きてないし」
「そっか、よかった」
「おばさん、こんにちは。じゃー、花音、おれ、部活行くな。」
「え、太樹、お母さんと話したいことがあったんじゃないの?」
「え、おれ、そんなこと言ったっけ?」
後から聞くと、私の事が心配で理由をつけて一緒に来てくれたみたい。どこまで優しいの。私には太樹なんてもったいないよ。これ以上ワガママなんて言ってられない。
ねぇ、太樹、私、あなたが思っている以上に、本当に幸せだよ、周りの、友達になった女子からも付き合ってるんだよね?って言われたくらい。私は今の関係で十分幸せだった
この日は、検診の日。学校が終わって、そのまま病院に向かった。
「一週間ほど入院しましょう」
やっぱり。わかってた。つい最近、発作が起きたばかりだった。だから、覚悟の上で、着替えもちゃっかり準備してあるんだ。
また学校いけないのか。
そもそも、入院して私の病気が完全に治るわけではない。憂鬱な入院生活で、もっと気分が悪くなるくらいなら学校で思いっきり楽しんで死にたい。こんなこと言ったらみんな怒るだろうけどその方が私は楽に、悲しまずに逝ける気がするから
"太樹、私一週間ほど入院になったから。学校いけない"
と、太樹にメールを送り、その日の1日を終えようとしていた。本当に明日が来るかなんてみんなわからない。もともと体が丈夫な人でも急死だなんてことあるよ、まぁ、よっぽどのことがない限りありえないかもしれないけど。明日は来るかわからない。次に目を覚ました時は天国だろう、そんな暗いことを考えながら眠りについた
次の日の朝、無事、目を覚ました私の隣には、太樹が眠っていた。
起こしたらかわいそうとも思ったが
「太樹、太樹、こんなところで寝たら風邪ひいちゃうよ」
「ん、んー、ん?んー、」
太樹は昔から寝起きが悪い。いつからここにいたんだろうか
「太樹、おはよう、いつからここにいたの?」
「あー、花音、おはよう、いつって、時計見てみな、もう10時だよ。おれ、8時半には来てたけどぐっすり眠ってたからおれも引きつられて寝ちゃった。」
「太樹、学校は?」
「花音、今日土曜日」
あ、そうだ。このままずっと入院してたら、カレンダーなんてあっても月日なんてわかんないや
「ねぇ、太樹」
「何?」
「太樹はさ、好きな人とかいないの?」
「…………いるよ」
なんて馬鹿なこと聞いてるんだと思い、「なんでもない」と言おうとした時、太樹が答えた。
「でもその人、おれのことが見えてないと思う。頑張り屋さんで、もしかしたら周りのことなんて見てないかもしれない」
「それって、いいの?周りが見えてないって、自分のことしか考えてないってことでしょ?」
太樹に好きな人がいるとわかって、ムキになった私は少し苛立ちがおき、太樹に少し乱暴な口調で返してしまった。太樹は少し驚いてる。
「いや、そういうわけじゃないんだ。精一杯1つ1つに真剣で、見てておれも元気付けられるっていうか」
そんなの好きのうちに入るの?なんて聞きたかったが、これを言えば、私の気持ちがバレてしまうんじゃないかと思い、口を閉じてしまった。