指示された、6番の部屋の前でノックをすると、気の弱そうなトランクス一丁の男が現れた。中肉中背だが、ポッコリと腹が膨れている。「あ、どうも。太郎です」とオトコは頼りなさげなか細い声で言った。年は、アタシと同じくらいだろうか。会社では、上司にこっぴどくしかられては萎縮するような、そんな風なキャラだろう。トランクスは、青い生地にピンクの水玉模様が入ったもので、さえないランチマットのような柄である。ダサい。

「どうも。花です」アタシは、部屋に入るといつものように、服を脱ぎ始めた。メタボは、どうしていいかわからないといった感じで、ベッドの上に座り、モゾモゾとパンツをズリ下げたり、上げたりしている。「ここは、はじめて?」と聞くと、「風俗自体はじめてです」
と、予想通りの答えが返ってきた。こういう、草食動物のような相手は嫌いではない。適当にリードして、乳首とアソコを攻めていれば、あっという間に規定の30分は過ぎてしまうだろう。終わったあと、綺麗に背中を流したり、飼ってもいないペットの餌などねだれば、また次に指名してくれるかもしれない。
「へー。そうなんだ」アタシはわざとらしく驚くと、メタボは恥ずかしそうに頬を赤らめた。彼の口から、酒臭い息が漂っている。きっと、朝まで飲んだその勢いで店を訪れたのだろう。アタシはようやく全裸になって、ポークビッツのようなモノをさらけ出したオトコの手を引き、シャワールームの扉を開けた。いたるところに茶褐色のカビの生えた室内を見て、メタボは一瞬ギョッとしたが、乳首をぺロっと舐めてやると「ハフゥ」と小さな吐息を漏らした。美容師がやるみたいに、シャワーヘッドを持ちながら湯加減を調整し、メタボのカラダと自分のカラダに交互に浴びせる。メタボはアタシのカラダをマジマジと見つめている。視線の先はもちろんアタシの左腕に注がれている。

「その傷、自分でやったの?」
「そうだよ。昔、暗かったんだぁ。」
アタシは、いつものように、適当に流すと、シャワーの栓を閉じ、ボディソープを自分のカラダにゴシゴシ塗り始めた。掻き毟ったノミの跡の上を、白い泡の層が優しく包んでいく。