腕時計の針が24時を告げる。メタボはさっきから、哀れいとおしむかのような目つきで、赤青黄色に輝くbらまかれたジュエリーの雫に見とれている。哀れいとおしむかのような目つき・・・目じりを下げて、おじいちゃんが孫の振る舞いに見せるような柔和な笑顔に見えなくも無い。本当にコイツが血のつながったアニキに流血の裁きを与えたというのだろうか。

「後悔してる?」
アタシは、手をかじかませ、暖かな二酸化炭素を小指のさきっちょに吹きかけつぶやいた。

「うん・・・」
彼の表情は一瞬にして曇り、その瞳は濁りを覚える。

「だったら、なーんで殺したの?取り返しがつかないんだよ」
思わず口から本音が漏れる。

「なんとなくさ、無意識になる時ってないかな?」
彼は続ける。
「意識なんか、全然なかったんだよね。いたずらみたいな気分だった。今までさんざんムカついてきたんだから、これぐらいはいいだろって。これぐらいは神様も大目に見てくれるだろって」

二月の冷たい空気を一瞬にして、白濁色のそれに変え、彼は続ける。
「その、これが、取りかえしのつかないことになってちまったんだよね。いますぐ、ドラえもんを呼びたいよ」
蒸気のことをダイアモンドダストと呼ぶヒトもいる。空気中の水素が、冷やされて水滴となっていく様はたしかに趣がある。だけど、コイツの、このメタボの吐息はラーメン屋で眼鏡が曇るときにつく、余計な氷結そのもので、色気の微塵も感じさせない。

アタシたちは無言でロープウェイを降りると、函館の小汚い温泉宿で、一線をまじ合わすこともなく眠りにつき、翌朝五時間かけて札幌へと向かっていった。旅館や電車代はもちろん彼が全て支払った。