「あのさ、なんでまた札幌行きたいの?この前、お兄さんのお葬式で帰ったばっかなんでしょ?」
アタシが単刀直入に言うと、メタボは「それは…」と言って口をにごらせた。葬式の時の状況は詳細には聞いていないが、彼にとって「自分が死んだほうがマシと思えるほうの出来事」だったらしい。その答えを聞き、「自分で殺しといて、はぁ?」と言いたげなアタシだったが、それでも死ねずにこうしてウロウロしている彼のダメさっぷりに、あきれるほどカンドーしてしまった。世の中には、理解できない部類の人間が確実に存在する。

大体、金が尽きたら自首をするといっていたが、本当に本当なのだろうか?このままトンズラし、どこかの田舎町で住み込みで働くつもりなんじゃあないだろうか。

「綺麗な空だね」
そんな風に彼は、青森の青空に向かってつぶやいていたし、ヒトゴロシなのに、そんな風にプチポエマー気取りなのが許せない。本当に呑気なオトコだ。だから、アタシは駅の指名手配の紙を目を細めてみる彼の姿や、たかだか一枚の切符を買うだけなのに、みどりの窓口のおばちゃんに、おどおどと発言しつつ、また例の「包茎くんスタイル」で振舞おうとする彼に、時にいらつきを覚えたりした。だがそれでもアタシがこいつにくっ付いてきた理由…それはなんとなくの面白さがあるからに過ぎない。それに少なからずお金ももらえるし、これはなんちゃって風俗嬢となんちゃって殺人者のなんちゃって旅行なのだ、なんてアタシは自分に言い聞かせ、そして駅からほど近い、青森ベイブリッジへと向かった。