「アタシには、関係ないでしょ!!」
アタシは外反母趾の指の痛みをこらえながら、カツカツとひた走りしていた。狭い小路を抜けると、「パン!」という乾いた銃声が聞こえる。驚き周囲をうかがうと、緑色のフェンスの向こうから子供たちの歓声が聞こえる。

運動会だ。今日は日曜日。「イケー!ガンバレー!!」あちこちから、父兄達の歓声がする。
ビニールシートを広げ、手作りの弁当を持っている母親を見ると、アタシとほとんど年齢差はない。平和な光景。そんな光景と、派手なピンク色のスカートと赤いヒールを履いた自分がすれ違い、急に気分の悪くなったアタシは、さっき口をつけたばかりのビールを吐き出してしまった。ゲーゲーやっていると、フェンスの向こう側の貴婦人がかけよってきて、「大丈夫ですか?」と声をかけてきた。「大丈夫ですから」と平静を装い、「そうですか」と去っていく婦人の後姿を眺める。肌は肉付きがよく、日焼けしてところどころから皮がむけている。「ママぁ!やったよぉ!」婦人に近づいてきた、紅白帽のオトコの子を抱き上げ、彼女は「早く戻りなさい」と恥ずかしそうにたしなめる。その姿にあちこちから、ほほえましい笑い声が聞こえる。
自販機でウーロン茶を買い、あまり見たくもないそんななごやかな光景をアタシはいつまでも眺めていた。他人と比較してなんぞやという感慨にふける年頃は、とうに過ぎてしまったつもりだったけど、緑色のフェンス越しのその空間がうらやましくさえ思えていた。

アタシには関係ない。運動会も、アイツの人殺しも。