「中学ン時、俺、かなりのガリ勉だったねえ。高校も3番で入ったしね。」
目の前のメタボな腹から視線を上にうつすと、確かにおもかげのようなものはある。突き出た頬骨、低い鼻、細く奥二重な目。紛れもない、学年で一、二を張る秀才だった、進藤太郎だ。学生時代より、だいぶ太ってはいるし、28の今となっては鼻毛も飛び出、顎はゴマ塩のようなヒゲが覆っているが、手入れのされていないボサボサの黒髪は昔と何ら変わりない。彼の顔を視線の片隅にとらえながら、目の前の鏡を見る。ミラーの中、金髪で、ブルーのアイシャドーが不気味に光る自分の姿があった。できの悪いタイムマシンに乗った気分で不思議と恍惚とし、アタシは思わずプププと吹きだしてしまった。

「まーさ。中学ン時は、末は大臣か、医者か、官僚か…なんてもてはやされたもんよ。それが今じゃ、プー太郎。」
太郎はそう言ってせつなそうに、セブンスターを小さくふかした。柄でもない。ガリベン太郎がセブンスター。普段はヤンキー臭いニコチンの香りも、なんとなく哀愁に満ちている。