ざらついた、おろし金のような手首の傷に触れると、今までシてきたことは、一体ナンとやらと、いたたましいキモチに駆られてしまう。撫でれば撫でるほど、蚊に食われたみたいに皮膚はヤなピンク色に染まっていくし、心の中はどんよりとした曇り空に覆われていく。花子は、誰もいない8畳ほどのその空間で、姿見に自分の体を投影してみた。茶色い乳首の周りには、形の悪い乳房がこんもりと広がっている。ここへ来る前は、もう少し真っ白で張りもあったはずなのに、二年たった今では、崩れかけたお雑煮のオモチみたいだ。乳房から、臀部までゆっくりと指を這わせていくと、いたるところに、画鋲でも刺したかのような赤い斑点がある。一日の大半を過ごす待機場には、おびただしいノミがひしめき、花子の体を蝕んでいた。以前、内勤のリュウさんに「なんとかしてください!」と懇願したことはあるけれど、「ごめんな。オーナーに言っとくからさぁ」と言われたっきり、梨のつぶてだ。だからといって、また言い返す気にもなれない。鏡に映った、B級バラドル並みのルックスじゃあ、働かせてもらえるだけでも有難いんだよっと、花子はいつものように開き直り、無理やり鏡に向かって笑顔をみせた。「鏡の前、笑ってみる。まだ平気みたいだよ」って、そんな気分にはとてもなれやしない。