「誰もあなたのことをみていないことなんてないわ。現に、私があなたを見ている。あなたは、それから目を離していただけよ」

「でも、僕はもう随分と目を離してしまった」

「大丈夫、みんなあなたの帰りを待っている。何事も遅いことなんてないわ」

さあっと、少女は手を差し伸べました。男は、その手を握ろうとしましたが、自分の手は塞がっていることに気がつきました。

どうしようかと、悩んでいると少女が今度は両手を差し出しました。
男は、少し躊躇いながらも、一つを少女に手渡しました。
すると、どうでしょう。それは、中でもくもくと煙が立ち込めて見たこともない違う綺麗な色へと変わっていきました。

「楽しいことを、自分だけ抱えて楽しむのもいいけれど、他の人と話して共有することでまた新しい楽しみ方が見つかることもあるのよ」

少女は、微笑みながら、空いている手で男の手を握りました。

「さあ、帰りましょ。あなたの世界へ」

男は、頷いて少女の手を握りしめました。