無事成績は落とさず夏休みに突入した。先輩はあれから二人きりになることを避けているみたいだけれど、生徒会や外でのデートでは普通に過ごしていた。

何度目かのクリニック。

私は少し軽い心で診察室に足を踏み入れた。

先生の診察で、私は自分の過去と向き合うことを知った。
あんなに辛かったことを忘れないでって思う自分の心にも蓋をして、忘れよう忘れようとしてきた事。

毎回先生は同じ話をさせる。
あの日の事を、一つ一つ思い出させる。

初めは泣きながら、わめきながら話した。
だけど回数を重ねる度に、思い出すことに慣れてきた。

手首を縛られて殴られた女の子は、私じゃない。
私は随分と客観的に思い出せるようになってきた。

「もう終わったこと」
最後に呟くと先生がにっこりと笑う。
「そうだね。……またおいで」

辛かった。苦しかった。怖かった。
だけどあれは全部終わった事だし、今傍にいる及川先輩は私を大切にしてくれる。

少しずつ、乗り越えられるような気がしていた。