…………ママ。

「あら、留愛、何してるの?」
それはこっちの台詞なんですけど。

眉を寄せた私に、後ろから出てきた高町さんが笑顔を向けた。

「こんにちは、留愛さん、ですよね。初めまして。高町です」
こないだのクリニックでの失礼な対応はなかったことにしてくれるらしい。


「高町、先生ですか?……初めまして」
「ここでは先生じゃないですし、そんなに心配そうな顔しなくても大丈夫ですよ。」
「あの、母がご迷惑をおかけしたみたいで、すみません。ねぇ、ママ、どういうこと?」

肘でママをつつく。
「だって留愛がウィッグ置いていくんだもん。バイトがばれて退学になっちゃったらママのせいだと思って校長先生に直談判しに来たの」

「えっ!?」

ママ、何て無茶な。

「でも心配なかったわね。それより彼はだぁれ? さっきイチャイチャしてたでしょ。若いっていいわねぇ」
何が心配ないのかわからないけど、ママは隣の及川先輩に興味津々でそれどころじゃないみたい。

急に話を振られた及川先輩は、顔を強張らせて口を開いた。

「留愛さんとお付き合いさせていただいています、2年の及川悠斗です。ご挨拶が遅くなって申し訳ありません」
「うふふ、初めまして。留愛の母です。娘のことよろしくお願いしますね。……留愛、ママと同じで面食いねぇー、でも男は顔じゃないわよ」

後半は小声になったけど、絶対及川先輩にも、高町さんにも聞こえてると思う。
二人は知らん顔してくれてるけど。