涙を流し続ける私の背中をずっとよしよししてくれて、先輩は落ち着くまで抱きしめていてくれた。

春が近づいて日が長くなったにも関わらず夕日が差し込んできて、私はやっと顔を上げた。
「ごめんなさい」

及川先輩は私を抱きしめたままでそっと囁く。
「お前が俺の分まで怒って、泣いてくれるから俺は十分だ。それに俺は、負けたりしない」

言葉の意味はよくわからなかったけど、そのまま唇を重ねられたから私は考えることを放棄した。

触れるだけのキスじゃなくて、私の中全部を味わうような舌の動きに身体は硬直する。
応えることもできない私の唇を軽く噛んで、角度が変えられた。

力が抜けてバランスを崩しそうになった腰が支えられる。

やっと言葉を絞り出せたのは、意外と肉厚な唇が離れてからだった。

「及川先輩……」
何か言わないと不安で名前を呼ぶ。
色々な気持ちが入り混じって私は先輩から距離を取った。

「留愛……?」

先輩……こんな時に狼にならないで。
傷ついた狼の為に身を差し出したいと思うのに、意気地なしのうさぎは怖くて震えちゃうんだよ。

夕日に照らされた先輩の頬が赤くて、自分の頬が熱くて、私達はしばらく無言で見つめ合った。