その事件は一ヶ月前に世間を騒がし、私も通っている高校で質問攻めを受けた。
記者も大勢 家に押しかけてきて意気消沈している両親にマイクを向けるから、私がしっかりしないとこの家は崩れてしまう気がして、二人を守ることに必死だった。
今にして警察から直接事件の概要を聞かされたあの時、よく私は冷静でいられたな、と思う。
兄が殺された。
とてもかわいかった奥さんに、
生後三ヶ月の赤ちゃんもろとも。
兄は全身を包丁で滅多刺しにされていて、赤ちゃんの右腕はなかったらしい。
右腕がどこに行ったのか、私はなにも知らされていない。
両親はときどき何かを知っているようにうわごとを呟いているが、その内容はどれだけ耳を澄ましても聞き取れなかった。
兄は、そして赤ちゃんは。
どうしてあの人は、殺人を犯したのだろう。
右腕がなかった、と言う事実が世間に広まるとすぐに兄の奥さんは『猟奇殺人鬼』と呼ばれるようになった。
でも、私が知るあの人はとても穏やかで美人で、優しくて、どこを見ても人を殺すような人には見えなかった。ましてや、兄と自分の子を。
私だけが蚊帳の外にいるような気分で、大好きだった兄を殺されたはずなのに、強い疎外感を覚えた。真実を知りたい。
あの人にあって、話を聞きたい。
いてもたってもいられなくなり、私は無断で学校を休むと留置所へ足を運んだ。
たった十五分間の面会、そのために。