「さすがに朝は忙しいから車で送るとして、帰りだけはこうして一緒に歩かんか?

なあ、そうしようや。

年に1回なんてケチなこと言わんといてや。

100歩譲ったとしても、週に5回だけ」

「それって、毎日ですよね?」

狼谷の交渉にまやが言い返した時、
「――まや?」

その声に、まやは心が凍ったような衝撃を感じた。

(――ウソやろ…)

声の主がまやの顔を覗き込んできた。

「ああ、やっぱり…」

自分よりも高い身長の男が、自分のことを見下ろしている。

心だけじゃなく、背筋まで凍ったのがわかった。

「何や、知りあいか?」

訳がわからないと言った様子で聞いてきた狼谷の質問に答えることができなかった。