無事に仕事を終えてビルから出ると、まやは狼谷の姿を探した。

「あっ、おった…」

彼の姿を見つけたまやは口に出してしまっていた。

当の狼谷は幼女とその母親らしき女性に笑顔で手を振っていた。

彼女たちも笑顔で狼谷に向かって手を振り返すと、彼の前から立ち去った。

その光景をじっと見ていたら、
「何や、きてたなら声をかけてくれてもええのに」

まやの存在に気づいた狼谷が歩み寄ってきた。

「邪魔したら悪いかなと思ったので」

そう返事をしたまやに、
「別に悪ないよ、さっきの母娘は道を聞いてきただけやし」

狼谷は笑いながら答えた。

(んなこと聞いてへんのに)

心の中でまやが呟いたら、
「ほな、行こか」

狼谷が声をかけてきた。