狼谷が運転席に乗ったのと同時に、車が動き出した。

「今日な、姉ちゃんが退院したんや」

狼谷が車を運転しながら声をかけてきた。

「そうですか」

まやは彼の方を見ることなく返事をした。

「生まれた赤ん坊なんやけど、それがとってもかわいらしい女の子なんやわ。

将来はかなりのべっぴんになるで」

「へえ」

「まあ、わいの中で１番べっぴんなのはまややけどな。

どんなにかわいらしい女の子に言い寄られたとしても、わいはまやが世界で１番やと思てるで」

「そうですか」

「…何や信用しとらんっちゅー顔してんな」

（そらそうやろ、どうせ誰に対しても同じことを言うてるに違いないって思てますけど）

口で言う代わりに心の中で言った。