コート無しでは出歩けない季節…窓からの陽射しは弱いが風を遮っている分暖かく感じる
目の前の、フワフワでマロンブラウン色の髪をそっと撫でた
君は机に伏せて寝息をたててる
「おーい…裕亮(ユウスケ)……置いて帰っちゃうぞ?」
起きて欲しい気持ちと、ボンヤリ寝顔を見ていたい気持ちが入り雑じり、思わず小声になる
「……ん」
少し反応を示す裕亮。反射的に裕亮の髪を撫でてた手を退けた
「…ふぁ…はぁ…あれ?いつの間にか寝てた(笑)」
「寝過ぎだし!置いて帰ろうかと思ったよ」
「弥恵(ヤエ)冷たっ!」
んーっと伸びをしてから裕亮は立ち上がる。寝起きの癖に爽やかな野郎だ。
「んじゃ、帰ろう」
裕亮の言葉で、二人並んで歩く
手は繋がない
だって、ただの友達だから
それに、裕亮は外見が良いからモテる。付き合ってもないのに手なんて繋いだら、裕亮に好意を寄せてる女子に殺されるだろう
裕亮の側にいて危害が無いのは、常に裕亮に守られてるからだろうなぁ
私にも、いつか裕亮みたいな包容力のある男性をゲット出来る日が来るのかな?
「はぁ…彼氏欲しいなぁ」
「は?何言ってんの?弥恵の彼氏になったら毎日パシられそう(笑)」
「そんなこと無いよ!……多分」
「多分かよ(笑)」
ケタケタ笑いながらクシャッと私の髪を撫でる裕亮の大きな手
裕亮は進路、どうするんだろう…
高校卒業したら…疎遠になるのかな?
「…………」
「…どうした?」
足を止めた私を気にかけ、裕亮は不思議そうな顔で私を見た
「高校卒業したら…今みたいに毎日話せなくなるんだなって思って…」
「何何?弥恵ちゃん、淋しいの?(笑)」
「………」
茶化す裕亮。私はなんとも言えない淋しさで俯いた
「……ばぁか…一人になんかしねぇよ」
グイッと抱き寄せられ、心臓が急に慌ただしく暴れだす
「……ゆ…裕亮?」
「心配すんなよ…俺、弥恵と同じ大学だから」
「……本当?……じ…じゃあ二人でルームシェアしようよ!!…大学の近くに…一緒に住も!?」
「はぁ?…俺は構わないけど、弥恵の両親がOKしたらな!」
私の親が反対するはずない。
親より口うるさいのが目の前の男、裕亮だから(笑)
不安だった気持ちが一気に解消され、ウキウキが止まらなくなる
「うちの親は快諾間違いなしだから、帰り道に良い物件探しに行こうよ!」
裕亮の手を引っ張り歩く。
裕亮となら何も不安はない
私が笑うと裕亮も笑ってくれる…その笑顔が好き
「裕亮ってお母さんみたいだなぁ」
「せめてお父さんにしてよ」
笑いながら二人で歩む未来は、きっと楽しい幸せな日々
「弥恵、今のうち料理勉強しとけよ?」
「え??…ゆ…裕亮の方が料理得意じゃん」
「……はぁ…先が思いやられるな…ま、良いけど(笑)」
……fin……
「雅人、お帰り…あ、俺の彼女の和田七瀬ちゃん。可愛いだろ⁉」
そう兄貴に紹介された「彼女」は、クラスメートであり、俺の片想いの相手だった
彼女も彼氏が俺の兄貴だと知らなかったらしく、かなり気まずい顔で会釈をし、兄貴の後を追って部屋に入っていった
その部屋で…個室で…密室で何してるんだよ
やっぱり………キス………するよな?
胸が苦しくなる
何だ、兄貴の女かよって、すぐ諦められたら楽なのにな
兄貴の部屋の隣に自分の部屋があるが、今は行きたくなかった。二人の会話なんて聞きたくねぇし
次第にイライラが募っていく。苛ついたって仕方ないのに
……………………………………
……………
「雅人、何かあった?具合悪い?」
「珍しく不機嫌だな」
いつもつるんでる菜穂と崇が茶化すように話しかけてきた。この場に七瀬は居ない
「七瀬は?」
「部活の先輩の所じゃない?雅人、先輩に七瀬取られちゃうんじゃね?」
取られちゃうんじゃね?じゃなくて、もう取られてんだよ!と言いたかったけど、七瀬が公表してない事を俺が言う権利はないから言わなかった。
「そういえば、雅人、もうすぐ誕生日だよね?何が欲しいのー?」
「彼女」
「そんなもの七瀬に言えよ(笑)」
密かに七瀬に想いを寄せていたつもりだが、この二人にはバレている。
ついでに、七瀬が会いに行ってる先輩ってのは兄貴の事だろう
「七瀬に告らないの?」
「七瀬に好きな人が居るかもしれないだろ」
「玉砕覚悟で告ればいいのに」
崇も菜穂も呆れ気味で他人事だ。
二人の気持ちも解るけど、兄貴と付き合ってるって知ってるのに、それでも告るって…どんだけマゾなんだよ!って感じな訳で……
「……しょうがないなぁ、じゃあ私が雅人の彼女に「結構です」
「即答?しかもかなり食い気味!」
ケタケタ笑ってると七瀬が教室に戻ってきた。紙袋には綺麗な青い毛糸玉。
「毛糸だ!クリスマスプレゼント?誰にあげるのよー」
「内緒だよー」
菜穂と笑う七瀬が可愛くて…
やっぱり七瀬が好きなんだと痛感する
「青じゃなくて緑にしたら?」
「え?」
「兄貴の好きな色…青より緑だから」
ボソリと小さい声で呟く。
「雅人、ちょっと来て」と、七瀬は俺の腕を引っ張り廊下に連れ出した。
「………あの…あれ、嘘だから」
「あれって何?」
「……先輩と付き合ってないから…ただ、編み物教えてもらっただけだから」
「そう…なんだ」
兄貴と付き合ってないと知り安堵する。
「あたしが好きなのは…先輩じゃないから」
「…俺にしとけよ」
ポンと頭を撫でて引き寄せる。
無抵抗で俺の胸に収まる七瀬。
「ん…雅人にしとく(笑)」
ギューッと抱き付いて来る。何を可愛いことしてるんだか
「…兄貴と俺、どっちが好き?」
「………言わすなバカ///」
………fin………
ふと目を覚ますと至近距離に大翔(ヒロト)の顔があった。
寝起きの脳ミソで、今の状態に陥った経緯を思い出す
確か…今日の授業で解らなかった所を、幼馴染みで成績トップクラスの大翔に教えてもらおうと思って、ベランダから大翔の部屋に来たんだ…
だけど大翔が寝てて…
起きそうもないし、私も眠たかったから…
小さい頃を思い出して、大翔のベッドに潜り込んだ…
そしたら、大翔…寝てるくせに、昔みたいに「ん?…どーした?」って寝惚けながら私を抱き寄せて頭を撫でてくれた
ベッドは暖かいし、大翔の寝息も、大翔の匂いも私を眠りに誘う材料になって…
いつの間にか寝オチして、気付いたら今だ
…大翔、まだ起きないのかな?
大翔は気持ち良さそうに寝息を立ててる
「ひーろと…おはよ」
「ん…んん?…亜美……勝手に入ってくんなよー」
そんな言葉とは裏腹に、大翔の腕は私を抱き締めたまま緩む気配はなかった