「あのキスは……、ごめん。」

「っ、」

「後藤くんの妄想なんかじゃない。私が、したの」


彼女は今、どんな表情をしているんだろうか。


「我慢、できなかった」


色んな人の足音が耳につく。

みんなが、俺たちを避けて歩く。

俺は呆然と、そこにいる彼女を見つめる。


もう涙なんて止まってた。



「……だ、」


彼女の小さな声が、聞こえた。

なんて言ったかは分からない。


彼女はゆっくりと、その顔を上げた。


「夢みたいだ」

「、」

「後藤くんが私を好きだなんて、夢みたいだ」



まるで小鳥のさえずりのような笑みを、彼女は零した。

ふふって、一瞬だけ目を伏せて。


「ほんと、夢みたい」


次に見たその瞳からは、涙が静かに零れ落ちた。