「……私は、あの日から…」
「、え?」
「あの日からずっと、私には、」
彼女がどんどんと顔をくしゃくしゃにする。
今にも泣きそうなその顔に、こっちが不安になってくる。
「……食堂でのこと、覚えてる?」
「しょ、食堂?」
いつのことだか想像もつかなくて俺は小さく首を傾げる。
「後藤くんもきつねうどんなんだねって、私が言ったあの日」
覚えてないかもしれないけど、と彼女は付け加える。
だけど、そんなの忘れるはずがない。
俺が初めて、彼女への思いを自覚した日のことだ。
俺たちが昼食をとっている時に彼女が颯爽と食堂に現れたあの日。
「私ね、あの時偶然一緒になったように言ったけど、全然偶然じゃないんだ」
「…、?」
「後藤くんがきつねうどんよく食べるの知ってて、いつも食べてた」
今度は俺が目を見開く番だった。
彼女はそんな俺を見て、視線を自分の足元に向ける。
いや、え、どういう、
「ほんとは月見うどんの方が好きだけど、後藤くんが食べてるからきつねうどんにしてた」
「え、」
「アクション映画も本当はあんまり知らない。誘う口実が欲しかっただけ」