「――っ、話、聞け…!!」


いきなり、目の前の彼女が大声を上げた。

辺りを歩いている人たちが一斉にこちらに目を向ける。

俺もぎょっとして彼女を見つめた。


最初、誰が発したのか分からなかったその声。

彼女は大声を出すような柄じゃない。

でも確かに、マドンナが声を発して、それは俺に向けられている。


そこで俺はやっと冷静になった。

繁華街の人混みの真ん中で俺たちは立ち止まっている。

マドンナの容姿が容姿だから、けっこう注目を浴びていることに気が付いた。

ちらちらと見られる程度だけど。


俺はこんなところで、あんなことを言っていたのか。


「馬鹿にすんなよ」

「え、」

「馬鹿にすんなー!!」


突然のその言葉に、いっそう周りの人たちがこちらに目を向ける。

修羅場だと思われてるんだろう、この現場。(実際修羅場っぽいけど)


マドンナは眉間に皺を刻んでこちらに目を向ける。

いつか、見た顔に似ている。

――あ、あれだ。出かける約束をした時の、あの表情だ。


「私が誘ったのは誰でもない、後藤くんじゃん!」