気付かされる事実に俺は愕然とする。

本当に今まで俺は、何をしてきたんだろうか。


「もしかして彼氏?」


裕樹、と呼ばれたその人が俺に目を向ける。

何もかも余裕なその様子で。彼は初めて、俺に切れ長の目を向けた。


俺という存在に気付いていたのかと、どこかでそんなことを思った。


「ち、違う!高校の、クラスの、友達」


ほんとに俺は今までずっと、調子に乗ってたんだと思う。

彼女が俺のことを好きだって、もちろんそんなことは思うはずもないけど。


マドンナのその言葉で、俺は遂に地に落ちた。


聞き逃さなかった。聞き逃せなかった。

慌てて否定して、
ほんの一瞬、彼女が、息を詰まらせた。

動揺したんだ。


そうか。そうなのか。

会うなんて、思いもしなかった。


これが、マドンナの、

――好きな人だ。

俺と付き合っているだなんて、思われたくないんだ。


そっかー。うん。

そうだよ、な…。



この後の2人の会話は、嘘みたいに頭をすり抜けた。

というか俺にはずっと、2人の口だけが動いてるように見えていた。


俺だけ水の中にいるみたいに、2人の声が遠く聞こえた。