並んで駅を目指す。
マドンナの丸いブーツの先が、俺の目には映っていた。
「映画より、話の方が盛り上がっちゃったね」
「そうだよね」
「後藤くんと話してると、ほんと楽しい」
また彼女は平気でそんなことを言う。
俺にとっては、こんな一言だけでしばらく胸の高鳴りが収まらないっていうのに。
天然なのか、これは。
彼女は自分を自覚してなさすぎる。
俺はゆっくりと深呼吸をする。
終わってほしくない、幸せな時間。
さすがにもう、彼女と出かけることはないだろうなって俺は心のどこかで思ってた。
だから途中からは緊張なんて気にせずに楽しく話ができたんだと思う。
こんな奇跡は、もう二度と来ない。
「ねえ、後藤くん」
「ん?」
「…私、ね」
「あ、有希子じゃね?」
マドンナの言葉は途中で遮られた。
聞いたことのない声によって。
きょろきょろと周りを見ると、こちらに駆け寄ってくる人が1人。
……誰だ?