この後、マドンナは

『実は、触るな変態って叫ぶところだったんだけどな』

って、苦笑いしてた。それが1番良い対処法なんだと言う。


たぶん、マドンナは今までにも同じような経験をしていて、何が効果があるのかっていうのを試せる程だったんだと思う。

叫ぶマドンナを見てみたいって思う反面、やっぱり複雑な気持ちになった。


俺は果たして、今日マドンナをナンパした男と何か違うところがあるんだろうか。

見た目とか、そういうものじゃなくて気持ち的な意味で。

僕はマドンナのどこを好きになったのか、自分自身で分からない。

もしかしたら、ナンパ男のように顔に惹かれただけってことかもしれないんだ。


偶然同じ高校に入学して、同じクラスになって。

あの時美術科準備室にいたのが俺だったから、今こうして俺は彼女の隣りを歩いてる。

街で見かけて声を掛けるなんて、そんな勇気俺にはないけれど。


どちらにしろ、俺の方があのナンパ男より運がよかったってだけの話で。


だから俺は、あの男の文句を何も言うことができなかった。

彼女は『私、引っかかるように見えたのかな!?』って怒りを露わにしていたけど。

俺は、――曖昧に笑うことしかできなかった。



チケットを買おうと意気込んでいた俺だけど、マドンナが家族に貰ったという映画の無料券があったので全くの役立たずだった。

だけど俺が飲み物とポップコーンはご馳走したいとお願いすると(千円にも満たないものだが)、渋々オーケーしてくれた。


(これはなんだろう。男の意地ってもんなのかな)