今年の学校祭の打ち上げで、クラスの皆と遊びに行ったことはある。
だけど女の子と2人っきりで出かけるなんてことは初めてだ。
もちろんその相手が想いを寄せてる人だっていうのは、俺を混乱させるのには十分だった。
なけなしの金を握りしめて洋服を買いに行ったのは、昨日の放課後。
店では勧められるままに、チノパンとかいうズボンを買ってしまった。
ファッションに疎い俺はほとんど店員さん任せで、言うまでもなく俺の諭吉は羽根を生やして飛んで行った。
今膝の上で握られている手には汗が滲んでいる。
緊張しないって方がおかしいと思うんだ、この状況では。
もう少しで待ち合わせ場所に着く。
会ったら、なんて挨拶するのが正解なんだろう。
映画のお金ってやっぱり、俺が払う方がいいよな。
鼓動が変な音を立てているのが分かる。
不整脈とか大丈夫だろうな。まじで、心配だ。
俺は昨日買ったシャツの襟を気にしながら電車を降りた。
正直こういうのは本当に予想してなかった。
でも、言われてみればそうだなって思える。
「お茶しようよ」
「いや、もう人が来るので」
「それまででいいからさー。ね、ちょっとだけ」
待ち合わせ場所にいたマドンナは、明るい髪色の男に声を掛けられていた。
なんだ?、って思って俺は思わず立ち止まる。
マドンナの、知り合い?