確かに彼女と友達になれたのは嬉しかった。
だけど、彼女とも他のクラスの友人と一緒で、滅多に会話をすることはないんだろうなって思ってた。
彼女と友達になるなんてことは、本当にぶっ飛びそうなくらいに幸せな出来事で。
夢みたいなことすぎるから、俺はこんなにも冷静に自分の現状を判断できてる。
どこか他人事のように、今の状況を見ている俺がいる。
「で、どんな音楽が好きなの?」
だから、普通に話し掛けてきた彼女の行動には、俺の思考を止める力が備わっていた。
知らないぞ。聞いてない。
彼女が俺に話し掛けてくるなんて、聞いてない。
話し掛けてこないはずだろう、普通は。
俺は彼女と教室で会話をするなんてこと、一切考えていなかった。(もちろん他の場所でも同じだ)
昨日話せたのは本当にすごい奇跡で、彼女はたぶん気まぐれに俺の本棚整理に付き合ってくれた。
だから次に話せるのはいつだろうって、熱い胸を抱えたまま家路についたはずなのに。
こんなのは予想していなかった。全く。
彼女が話し掛けてくるなんてこと、少しも思い浮かばなかった。
「邦楽?洋楽?どっちが好き?」
彼女は返事をしない俺に、次々と質問を浴びせてくる。
俺の音楽の趣味を知ったところで、彼女にとってはなんの得にはならないだろうと思うのだが、彼女にとってはそんなことどうでもいいらしい。
俺の目の前には、浅井有希子がいる。
「ねえ、どっち?」