逃げなくては…。一刻も早く!

月は、南の空から西へと傾きかけている。
もっと月が落ちて行き、西の空に吸い込まれて行く前に、あの男が、今度こそアキを奪いに来る。



しかしどこへ?
ここは、異次元だとあの男は言った。

奴の前から姿を隠す事など可能なのか?


何もわからない。
だけど、僅かでも可能性があるのなら…
ここではないどこかへ…。


あの男につけられた右首筋の傷を指で確かめる。
窪んだ二つの傷跡、そこから血が流れ出した形跡は確かにある。

しかし、不思議なことに痛みはもう全く感じない。
身体も普通に動く。


ハルは、アキの身体を抱きかかえると、辺りを見回した。
どこへ逃げればいいんだ?!
わからない…。