どう贔屓目に見ても、どんなカメラレンズを使ったとしても、僕の母が綺麗と言われる事はないだろう。

この人に対して用いるべき形容詞は、「かっこいい」だ。

黒髪ポニーテール、切れ長のつりあがった目、高い鼻、薄い唇、すらりと伸びた手足、高めの身長。

デキるオフィスレディのようだと、隣の家のみぃ君は言っていた。僕もそう思う。

逆さ吊りにされても口には出さないが。

「飯出来てるぞ、早く入れ。ん、なんだこいつ?綺麗な猫じゃねーか。」
「あ、うん。さっき公園の前通りかかったら懐いちゃって。」
「お前の母親か?私はニケだ。よろしく頼む。」

………。

えっ、何喋ってんの?

サーッという音が聞こえる。これが血の気の引く音か。

「あん?裏声なんて使うんじゃねぇ、気持ちわりぃ。いいからさっさと飯にするぞ。」
「………ハイ。」

バレていないらしい。朦朧とする意識を何とか保ちながら、母に続いて家に入る。仕方ないが、ニケには外で待っていてもらおう。夕食が終わり次第、コンビニにキャットフードを買いに行こう。

「その猫、飼うんだろ?飯の前に風呂行って洗ってやりな。」
「母さんって、よくエスパーって言われない?」
「言われない。言われたことはさっさとしな。飯片付けちまうぞ。」
「それだけは勘弁………。」

理解ある母親なのか、ただ単に適当言ってるだけなのか。
懸念されていたニケの処遇については、一抹の問題もなく解決した。

この間、ニケはボーっと僕らの会話を眺めているだけだった。