沈黙が世界を支配しない程度の会話を繰り広げつつ、僕達は家に向かう。

合計四回、言いかけて止めた分も含めて五回、ニケが「家はまだか。」と言った。一体僕の家のどこにそんな魅力があるのだろう。

到着するや否や、喋る猫は感情を一切込めない声で「ごく普通の一般家庭の家だな。」なんてぬかしやがる。
あんなに楽しみにしていたのに、なんという言い草だ。言葉の刃が少々鋭すぎる。涙が出そうだ。

と、綺麗サッパリ忘れていた事があった。
僕はニケと帰ってきた。これは周りから見れば、猫を拾ってきた事になるだろう。両親になんと言い訳すればいいのか。

「そんなもの、私にかかれば『糠に釘』モノだ。」

………色々間違ってませんか?
それじゃどうしようもなんないし。

そもそも、猫が喋るという事実を両親に単刀直入に伝えたところで、僕の頭がおかしくなったか、自分達の耳が幸せになったかの、どちらかの反応しか見せないだろう。

「ん?私が喋る事がそんなに珍しいのか?いやいや、もっとすごいぞ。九九だって言えるぞ。」

暴走特急と化した化け猫は、頼みもしないのに九九を言い始めた。
一の段で速攻間違ってるし。放置だ、面倒くさい。

改めて今後の方針を考える。
困った。実に困った。どうするか。

「ニケ、とりあえずちょっとここで待ってい」
「うるせーな、何自分の家の前でギャーギャーわめいてるんだ。」

言い終わる前に、母(近所ではキラークイーンと呼ばれている)のハスキーボイスが響いた。